【廃線跡】スカーボローのミニ廃線跡を歩く(イギリス)
~ 英国東海岸のリゾート地で見つけた、ささやかな鉄道跡 ~
イギリス(イングランド)の東海岸に、スカーボロー(Scarborough)という町がある。
最寄りの主要都市はヨーク(York)。そこから、列車で50分ほどの距離である。
↑スカーボローの位置。イギリスやイングランドのどの辺りに位置しているのか、町はどんな風になっているのか、そもそも日本とイギリスの位置関係は……などについては、適宜上のGoogleマップを拡大・縮小して頂きたい。
海岸沿いに位置しているだけあって、ここはイギリスきってのリゾート地。
海沿いには砂浜が存在し、ビーチ沿いにはゲームセンターや飲食店などの店舗が立ち並び、町の中心部には旧市街の建物が広がっている。賑やかな町なのでやや雑多でゴッチャリした印象はあるが、それほどリゾート地として人気を集め、賑わいを見せているということであろう。
おまけに言うなら、ここはイギリス現地ではポピュラーなリゾート地でありながら、アジア圏においてはそれほど知られていないためか、アジア系の人を見かけることはあまりない。アジア系の多い空間から少し離れて、ヨーロッパやイギリスの雰囲気の純度が高い場所で時を過ごすなら、このスカーボローという町はうってつけの場所とも言うことが出来るかもしれない。
↑スカーボローの美しい海岸と街並み。町にある小さな半島の山の上には、古城跡も存在している。
さて、自身がイギリスを旅行中にこのスカーボローの街を歩いていると、街中でちょっとした「廃線跡」を幾つか見つけることが出来た。
今回は紀行文のような形で、この時に見つけた2ヶ所ほどの「ミニ廃線跡」を、ミニリポート的に紹介することにしよう。
(※この町(Scarborough)の日本における呼び方は「スカボロー」や「スカーブラ」など様々あるようだが、本記事における表記は実際の発音に忠実に合わせ「スカーボロー」で統一することとした。)
★ ミニケーブルカーの廃線跡 ★
スカーボローの海岸沿いには崖のような地形が存在するため、その高低差往来の利便を高めるために、この町には合計で3つの短いケーブルカーが造られてきた。
うち現在でも現役なのは2路線。残り1路線は短距離であるためか、現在では廃線となっている。
この項で紹介するのは、その廃線となったミニケーブルカー。
距離・軌間・廃止時期…などの詳しい路線データは調べていないため割愛するが、下の廃線跡の現地リポートにも掲載しているように、かなり広軌で相当短距離であるなど、日本のケーブルカーとは違った特色が幾つも見られる。
早速にはなるが、その実際の姿と現地の様子を以下で見ていこう。
・撮影時期:2017年4月
※ 以下しばらく【ア】の地点。
ミニケーブルカーの廃線跡全景。ご覧の通りその距離は極端に短く、ケーブルカーというよりは斜行エレベーターといった印象である。
ケーブルの全景をもう少し近くより。全線に渡って複線で、軌間もかなり広いことから、日本でいう京都の蹴上インクラインを想起させる。
下側の駅の建物は現在、アイスクリームなどを販売する店舗となっている。建物内にも上から来たレールが残存していたが、特に何も買わなかったため内部の撮影は控えておいた。
台車及び軌道の近影。軌道中央には1本のレールが設けられており、台車下部をよく見るとそのレールを挟み込むような何かが見えるため、ブレーキ用のレールの役割をしていたらしい。鋼索を通していた設備が軌道には見当たらないため、現役時どのような構造だったかが気になる。
廃線跡を横から。距離は相当短いながら軌道はかなりしっかりした造りとなっている。上に留められている2台の車両は、台車は現役時使われていた本物のようだが、車体は廃線後に造られたダミーのように見える。
軌道下部を近くから。コンクリート製の立派な高架構造であり、短距離で廃線になったのが勿体ないくらいだ。
軌道を至近から。中央のレールは標準的な「エ」形のものだが、両側の走行用レールはよく見ると「逆T字型」となっているのが面白い。右写真の下側の駅の上部は現在、オープンテラスに改造されている。
上側の駅も現在はカフェに改装されている。建物は奥に停められた車両と一体構造となっている。
↑【イ】
↑【ウ】
現在も現役で活躍する他2つのミニケーブルカー。現地では「Tramway」(軌道) や「Lift」(エレベーター) などと呼ばれている。高低差の移動手段であるだけでなく、そのクラシックな風格がスカーボローの町のシンボルのようにもなっている。日本のケーブルカーとの構造的な違いも興味深く、機会があればまた別途改めて詳しく紹介したい。
★ リフトの廃線跡 ★
町の中心部から外れた町北部の海岸沿いを歩いている時に発見したもの。
現地の様子や地図(航空写真)などを見てみると、海岸沿いから小高い丘の上の遊園地と思しき場所までを結んでいたらしい。
これも詳しい路線データは調べていないため割愛するが、Googleマップの航空写真などを見る限り、先ほどのケーブルカーよりも長い距離を運行していたようである。
本項も廃線跡のリポートが中心となるため、詳しくは以下の現地の様子をご覧頂きたい。
(※イギリスでは「リフト」(lift) と言うと「エレベーター」のことを指すので、イギリスに行かれる場合は留意されたい。)
(※リフトのような索道系が鉄道と言えるのかどうかは議論が分かれるところだが、本ブログでは一定のガイドウェイに沿っていく軌道系の交通機関であることに変わりはないとして、鉄道の一種と見做すことにした。)
・撮影時期:2017年4月
※ 以下しばらく【エ】の地点。
海岸沿いの乗降場跡。乗降ベースだけでなく、リフトが折り返していた巨大なホイールも、錆びついた状態で残っている。
乗降場跡を横から見る。一部で蓋が失われて機械がむき出しになっている。
海岸沿いの一連のリフト乗り場跡は特に柵も何もされておらず、公園の一部として自由に出入り出来る状態なのが少々驚きである。
ケーブルを失った支柱は完全に無用の長物として、曇天の空の下に立ち続けている。
支柱の滑車部を拡大。右側に蔦か針金が絡んでいることが、朽ちつつあることを物語っている。
丘の上に向かって勾配を稼ぐ。意外と高所を通過していたようだが、落下時の防護ネットは元々設けられていなかったのか、それとも廃止後撤去されたのか。
登っていく支柱を別角度より。写真を少し加工すれば、丸田祥三氏風の廃墟写真が作れそうである。
スカーボローの半島や海と廃リフトの支柱。この時の曇天とも相まって、哀愁たっぷりの光景である。
【オ】このリフトがどこまで続いていたかGoogleマップで辿ってみると、丘の上には遊園地の廃墟区画のような場所があり、ピンを立てた場所の下にリフト乗り場跡が見える。廃リフトの先に廃遊園地…だとしたら更に凄い物が見られそうだが、海外で面倒事を起こすわけにもいかないので、現地で現場に立ち入るのは控えておいた。
ちなみにこのリフト跡のすぐ横には、ミニサイズの遊覧鉄道(現役)が走っている。訪問時は運行日ではなかったようだが、イギリス規格の鉄道が小スケールで再現されていたり、これ大丈夫か…と思ってしまうようなガタガタのレールが見られたりと、こちらも興味深い。
★【補記】その他の廃線跡 ★
本記事で紹介したのは街中や周辺で見つけたちょっとした廃線跡だったが、スカーボロー周辺にはこの他にも、旧イギリス国鉄系の廃線跡も存在している。
その存在を見つけたのは、スカーボロー駅に掲げられた古い路線図。
かつてイングランド北東部の鉄道路線を運営していた「北東鉄道」(North Eastern Railway) という会社の路線網を描いたもののようだ。
その中のスカーボロー周辺付近を見てみると、駅より西に少し外れた場所から分岐し、北に向かって延びていく路線の存在が確認出来る。
同じく駅に掲げられた現在の路線図を見てみると、同じ場所からは先程の路線が消えている事が分かる。
つまり、駅の近くにこの路線の廃線跡が存在しているということである。
この路線がスカーボローのどこを通っていたか、Googleマップなどで廃線跡の場所を調べ、現代の地図に落としたのが上の図である。点線部分は航空写真だけではルートが不明瞭だった箇所である。
自身がスカーボローを訪ねた時には、街歩きに専念していたことや街中から距離があったことから、この廃線跡を直接訪ねることは叶わなかったが、廃線跡と交差する一般道のストリートビューから現地の様子を伺うことが出来るので、以下で少しだけ紹介したい。
【カ】現在、廃線跡の大部分は木立ちに囲まれた散策路として整備されている模様。Googleマップによれば、この鉄道はかつて スカーボローとウィットビー(Whitby)という町を結んでいた もののようで、現在でも廃線跡の遊歩道は「旧スカーボロー・ウィットビー鉄道」(Old Scarborough to Whitby Railway) と呼ばれているそうだ。
【カ】同じ地点の踏切跡の様子。丁度線路が交差していた部分には、あたかも線路を彷彿とさせるような形でタイル・ブロック舗装がなされている。線路跡を再現したものなのか単に横断帯を描いただけなのかは分からないが、何だか粋である。
********************
イギリスは単に遠く離れた異国であるだけでなく、鉄道発祥国ということもあり、日本とは違った鉄道システムが数多く見られる。
そして、かつては多くの鉄道網が国内に張り巡らされ、消えていき、そして多くの廃線跡も生まれてきた。
自身も先の旅行で幾多のイギリスの鉄道スポット、及び幾つかの廃線跡を訪ねてきたし、未踏の場所にもまだまだ面白そうな所は沢山存在しているので、訪ねたものは順次このブログでリポートしていきたいし、将来的にも機会があれば、廃線跡や鉄道スポットを更に訪ねていきたいと思っている。
(※参考文献:なし)